京都大学 化学研究所 環境物質化学研究系 京都大学大学院 農学研究科 応用生命科学専攻協力講座 分子微生物科学研究領域

menu

Research

研究概要

微生物の様々な生命現象のメカニズムを生化学的なアプローチで解き明かし、応用展開することを目指して研究を進めています。特に特殊環境微生物の環境適応を担う分子基盤の解析、ユニークな反応を触媒する新しい微生物酵素の探索と構造・機能解析、生体膜を構成する脂質分子の生合成・代謝・生理機能の解析、微生物が細胞外に分泌生産する膜小胞の形成と機能発現を担う分子基盤の解析を行っています。また、それらの知見に基づき、物質生産などに資する新しい微生物利用法の開発を行っています。

研究内容の概要は、こちらの動画でも紹介しています。

微生物の環境適応に関する研究

微生物の環境適応機構の解析と応用

地球上の生命圏の約8割は常時4℃以下に保たれた低温環境です。一方、生命は100℃付近の高温環境で誕生したと考えられています。生物は長い進化の過程で如何にして氷点近い低温環境に適応してきたのでしょう?化学反応速度が低下する低温環境では、反応の活性化エネルギーを大きく低下させる優れた触媒(酵素)が必要です。低温下で生体膜が固まらないよう、その流動性を保持する仕組みも必要です。低温環境に生息する微生物はこのような環境適応戦略を進化させてきた興味深い研究対象です。産業利用も期待されるこのような微生物について、環境適応の分子基盤の解明や、これらを利用した新しい物質生産システムの開発に取り組んでいます。

  
南極海水由来の低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 と低温適応の推定メカニズム

微生物酵素の研究

微生物酵素の機能解析

微生物は、動植物には見られないユニークな活性をもつ酵素を生産することで、環境中の多様な化合物を資化・分解し、また、特異な機能を有する多様な化合物を生合成する能力を備えています。それらの酵素には物質生産や環境浄化への応用が期待されるものも多く、また、酵素化学的に興味深い反応メカニズムをもつものが多数含まれます。このような微生物酵素を対象として、それらの機能解析、精密反応機構解析、応用開発に取り組んでいます。

微生物膜脂質の研究

微生物膜脂質の生合成・代謝・膜内動態・生理機能の解析

生体膜はさまざまな脂質とタンパク質からできており、細胞と外界のインターフェースとして生命維持に必須の役割を担っています。さまざまな生体分子から膜が、どのように形成され、機能を発現しているのか明らかにすることは、微生物科学に限らず、生命科学全体の最も重要な課題の一つです。膜を理解することは、応用微生物学の観点からもきわめて重要です。例えば微生物細胞で作った有用物質を細胞外に効率的に排出させるためには膜の機能を理解することが重要です。私たちは、膜を構成する脂質分子の生合成や代謝、膜内での動態、生理機能に関する研究に取り組んでいます。

 
 低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 によるエイコサペンタエン酸含有リン脂質生合成

微生物の細胞外膜小胞に関する研究

細菌の細胞外膜小胞の形成機構解析と応用開発

細菌は、細胞表層の膜を大きく変形させることで、膜で囲まれたナノサイズのカプセル(膜小胞)を細胞外に生産します。膜小胞は、細胞間コミュニケーションや病原性の発現など、生理的に重要な多くの役割を担っています。ワクチンやドラッグデリバリーのプラットホームとして膜小胞を利用する応用研究も大きな注目を集めています。私たちが発見した膜小胞を大量に生産する細菌を使って、膜小胞が作られる仕組みや、特定のタンパク質が膜小胞に輸送される仕組みを調べています。また、人工的に様々な機能をもたせた膜小胞を作り出す応用研究も行っています。